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大阪高等裁判所 昭和61年(行コ)30号 判決

大阪市東住吉区南田辺五丁目二八番三四号

控訴人

松本修

右訴訟代理人弁護士

香川公一

大阪市平野区平野西二丁目二番二号

被控訴人

東住吉税務署長

倉中要三

右指定代理人

細井淳久

足立孝和

西尾了三

藤島満

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  控訴人

(一)  原判決を取り消す。

(二)  被控訴人が、控訴人に対し、昭和五七年二月二五日付けでした控訴人の昭和五三年分ないし昭和五五年分の各所得税の更正及び過少申告加算税賦課決定の各処分をいずれも取り消す。

(三)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

との判決

2  被控訴人

主文同旨の判決

二  当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加するほかは、原判決の事実摘示と同一であるから、これをここに引用する(ただし、原判決添付別表一の区分欄の各年分の四段目の各「過少申告過算税額」をいずれも「過少申告加算税額」に改める。)。(当審における控訴人の主張)

1  本件課税処分取消訴訟の訴訟物は、原処分庁のした手続的違法の有無、すなわち調査の違法及び推計手続の違法の有無である。しかるに、原判決が控訴人の請求しない「所得の額」について認定したのは、不告不理の原則に反する。

2  所得税法二三四条一項所定の質問検査権の行使が原判決説示のように税務職員の裁量に委ねられていると解するのは誤りである。過去の税務行政の円滑な遂行は、民主商工会の役員及び事務局を車の両輪とし、納税者本人を中心に調査に対する協力をしてきたことにより支えられてきたのであり、このことは、民主商工会が過去及び現在において社会的、政治的に重要な役割を果たしていることに徴して明らかである。これらの点にかんがみると、税務署員の調査に際し、民主商工会の事務局員の調査立会いが調査妨害であるとして、その立会いを絶対的かつ例外なく拒否することは許されないものである。原判決説示のように、第三者の立会いが場合によつては税理士法に違反するおそれがあるというのは妥当でない。

3  本件においては、税務署員の良心的、協力的姿勢等があれば、実額調査が十分可能であつたから、これをしないで推計課税をしたのは違法である。

三  証拠関係

当事者双方の証拠は、原審及び当審訴訟記録中の各書証目録と証人等目録に記載のとおりであるから、それをここに引用する。

理由

一  当裁判所も、控訴人の被控訴人に対する本訴請求はいずれも理由がないから棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決理由説示と同一であるから、それをここに引用する。

1  原判決一二枚目表一一行目の「認められ、」の次に「原審及び当審」を、同一二枚目裏五行目末尾に続けて「なお、控訴人は実額調査が十分可能であつた旨主張し、原審及び当審証人芳賀勝の証言並びに原審における控訴人本人尋問の結果中には右主張に沿う部分が存するけれども、右証言及び供述部分は、いずれも具体的でなく、客観的資料による裏付けもないからにわかに措信できない。」を、同一三枚目裏四行目末尾に続けて「なお、当審において控訴人は、税務署員がその調査に際し、民主商工会の事務局員の調査立会いを調査妨害であるとして絶対的かつ例外なく拒否することは許されない旨主張するが、税務調査の経緯についての前記認定の事実関係の下においては、被控訴人の職員が控訴人に対する税務調査において第三者たる民主商工会の事務局員の立会いを拒否したことに何らの違法・不当はなく、当審証人芳賀勝の証言によつても、質問検査権の行使につき被控訴人の職員に裁量権の逸脱があつたとは到底認め難い。」をそれぞれ加える。

2  同一九枚目裏六行目の「二二・〇六」を「二二・六」に、同行から次行にかけての「二一・〇九」を「二二・〇」に、その七行目の「二一・五一」を「二二・三」に、同二一枚目表二行目から三行目にかけての「一億三一三八万五一七〇円」を「一億三一一六万二七七六円」に各改める。

3  控訴人は、本件課税処分取消訴訟の訴訟物は、原処分庁のした手続的違法の有無、すなわち調査の違法及び推計手続の違法の有無であるにもかかわらず、原判決が控訴人の請求しない「所得の額」について認定したのは、不告不理の原則に反する旨主張するが、そもそも本件課税処分取消訴訟の訴訟物は、係争各年の総所得金額に対する課税の違法一般であると解するのが相当であるから、原判決が課税標準たる所得金額について認定判断した点に何らの違法はなく、控訴人の主張は、ひつきよう、独自の見解に基づき原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。

二  よつて、原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、民訴法三八四条一項により本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき同法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 日野原昌 裁判官 坂上弘 裁判官 大谷種臣)

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